クラシックの悦楽 願いをかなえる名曲をめぐる旅

青少年のための明るいクラシック学入門

はじめに

 どんな人にも、何かに出会う時があります。そのタイミングが来ないかぎり、出会えない何かがあるものです。今この本を手にとられたあなたは、心の深いところで何かが引っかかったのかもしれません。クラシックが好きな人なら、もっと楽しみたいとか、何でもいいからしあわせへの気づきを得たいと思われたのかもしれません。クラシックをあまり聴いてこなかった人は、今まさに時が巡って来て、その広大な世界へつながるドアへ手をのばしかけたといえます。ところが、
                                                                                                     
クラシック音楽は眠くなる。
クラシック音楽は飽きる。
クラシック音楽はつまらない。
クラシック音楽は長い。
クラシック音楽は暗い。

あなたはそんなイメージを持っているのではないでしょうか。
もしそうだとしても、あなたは正しいのです。

私はクラシックを聴きはじめて三十五年になりますが、世間でよくいわれるクラシック音楽は、そんな私でさえ聴いていて眠くなる、すぐに飽きてしまう、つまらないものです。それは今でも変わりません。また、難しいイメージもあるでしょう。そんなものを、これまで聴かなかった人があえて聴きたいとも思わないし、まして好きになるなんて、ほとんど奇跡です。

かつて私もクラシックはとくに好きではありませんでした。初めは小学校の音楽の授業で、この世にはなんてきれいな音楽があるものかと関心したり、体育館にやって来たオーケストラの演奏を聴いて、ずいぶん大げさな音を出すものだと驚いたくらいです。

ただ私には、心の深いところで何か引っかかるものがありました。クラシックには、どこかワクワクさせるものがありそうだ。それはいったい何だろうと。例えばおいしそうなスイーツがあって、ほんの少しなめてみても、味がよくわからない。そこで味がしないからといって、食べるのをやめてしまうこともできましたが、もう少し食べて味を確かめてみたい、食べてみようと思ったのです。そうしたら、あれ? けっこうおいしいかも、と感じるようになった。だから私はそれからも、「ただなんとなく聴く」のを続けていました。

やがて私はよく知られたクラシックの曲ほど、眠くなる、飽きる、つまらなく聴こえるものがほとんどで、多くの人がほんとうの名曲や、魂が揺さぶられるような曲に出会っていないことに気づきました。また、クラシックを聴きなれていないせいで、その曲のよさでもある味がわからない、だから長くも感じられれば、暗くも感じられると気づいたのです。これは、例えば急に友人に誘われて誰かのライブへ行くことになったものの、あらかじめそのアーティストのアルバムを聴いて予習する時間がとれなかった場合と同じです。たまたま知っている曲では盛り上がるのですが、知らない曲にはついていけずに、どこか退屈で、早く終わってほしくなるでしょう。

クラシックを聴き続けたことで、私にもぽつりぽつりと気になる曲が出てきたり、かつての静かなワクワクが、しだいに興奮に変わりだしました。ここまで来るともう止まりません。クラシックについてもっと知りたくなります。すると曲にまつわるさまざまなエピソードとともに、曲を聴いていた頃の空気までがそのまま記憶に封じ込まれ、そうして知った名曲の数々は、どんなものにも代えられないものとなりました。

それだけではありません。本書でも詳しくお話していくことになりますが、クラシックを聴けば聴くほど、心身ともに快調になり、私の日常や生活、さらに人生といえるものが、素晴しいものになっていきました。いつもどこかで何かがうまくかみ合っていて、偶然と思われる出来事や、フシギな出来事を引き寄せるといったこともしばしばです。

けっきょく大切なのは、どのようにして大好きになる音楽や、それを同じように好きな人々と出会うか、そしてどれだけ多く聴いたかに尽きますが、ただ聴くだけでいいなら誰もがクラシック好きになるでしょう。けれども、そんなことはありません。

さらに私たちのまわりには、いろいろな種類の名曲ガイドがあふれています。どれもよく書かれてはいるのですが、それらの本ではクラシック音楽を代表する名曲の魅力を知ることはできても、あなた方が本当にそれらを大好きになる手助けにはならないでしょう。なぜならそこに、もっとも重要な要素としての、あなたがクラシックを大好きになる出会い方や楽しみ方、長年にわたって聴き続けるための方法について書かれていないからです。

そこで本書では、まずは世間でよくいわれるクラシック音楽について考えながら、クラシックを聴かないと人生をムダにしてしまう多くの理由について、お話してみたいと思います。またこれまであまりなじみがなかった人には、クラシックが大好きになる出会い方、聴き方などを提案し、すでに好きな人にはより好きになり、楽しむための工夫を凝らしました。
ちなみに本書を読むのに音楽の知識はいりません。ほとんど曲名紹介にとどめて名曲ガイドをなくし、それを解説するための五線譜も書いていなく、付録CDもついていません。

大好きなことが多いほど、人生は限りなく楽しいものになっていきます。そして楽しければ楽しいほどしあわせになれるのです。この本でクラシックをより好きになることで、あなたやまわりにいる人が、よろこびや素晴しさ、感動を分かちあい、これまでにましてしあわせな人生を歩まれるのを保証いたします。さあ、これから一緒に、あなたの願いをかなえる名曲を見つける旅へ出かけましょう。